PRODUCTION NOTES

前作「ロミオとジュリエット=断罪」の挑戦が好評で、急遽制作に取り掛かったのがこの「椿姫=原罪」でした。

前作終演後、わずか三ヶ月で迎えた第二回公演・・・。

制作チームから提案されたデュマ作「椿姫」は、ロミジュリと同じく一見するとロマンチックな印象が強いですが、細部を描写するとなかなかにグロテスクな一面が見えてくる作品です。

そしてロミジュリに比べ知名度が低く、またドラマが少ないのでそのバランスには悩まされました。

上がってきた脚本の登場人物は5人。物語の主軸のみを残したソリッドなアレンジでした。

極限まで削ぎ落とされ硬質で挑発的な内容は劇的であると同時に、原作の持つ魅惑的な甘さも備えた上質な仕上がりでした。

しかしそれを実現するには、俳優の技量にかかってくる面が多分にあり・・・いや、ありすぎました。

これは前作の課題である〈セリフの身体性〉が不可欠な内容で、そこに真っ向からぶつかれという劇作家の思惑がありありと見えたのです。かわいい×古典なのに・・・(-"-;)

オーディションに加え、前作に引き続き出演してくれる小沼枝里子・長田咲紀の協力のもと全キャスト・スタッフが決定し、さあ舞台美術はどうしようという段階になりました。

私はもう一度、台本を読み返しました。

古典というものは、受け継がれる長い年月のなかで研ぎ澄まされ、より鋭い輝きを放つようになったものでもあります。

その刃をみがいたであろう誰も気に掛けることのない研ぎ石について、私はふと思いをめぐらせました。

高級娼婦、主役のマルグリットにはそんな設定がありますが、どれほどの人がその肩書きを明確にイメージできるのでしょうか。

政治家、アイドル、医者、風俗嬢・・・

一つ一つの肩書きに、想像も出来ないたくさんの人たちがいたことでしょう。

この古典作品の一つ「椿姫」のマルグリットも数多くの俳優によって演じられたことでしょう。

名前も顔も知らない無数の人間が演じてきたはずです。

そんなこんなを考えて、舞台中央には白い長方形の箱を置くことにしました。

それは名もなき白骨が埋まる墓であり、花を支える樹であり、ヒトの生活を受け持つ机であり、手紙を預かる郵便箱であり、善悪渦巻く投書箱であり、貨幣が投げ込まれるゴミ箱であり、行くあてのない魂が宿る依り代としてあるように。

そうして。[一輪の椿][舞う紙片][手紙]の小道具が描かれました。

頭上にはぼんやりと灯るフロスト球が並び、天空の星座のように運命を占います。

足元には赤絨毯。

さながら、血にまみれたヒトの道と天球が交わる銀河のような舞台美術が出来ました。

客席は四面、囲み舞台。いよいよ逃げ道はなくなって・・・。

俳優には劇が始まった時から逃げ道はない、もちろん出入りもなく・・・。

登場人物の運命と同じく、生まれ落ちた時から宿命に向かってひた走る。

決められた道の上を必死に生き抜く。

その姿は決して無味乾燥なお約束事ではなかったように思います。

まだまだわたしたちクリム=カルムの旅は続きます。

星の明かりを頼りに、決して穏やかではない海を進みます。

その先に新大陸があるかもしれないし、ないかもしれません。

なぜ旅に出るんだと聞かれても確かな答えは持っていないのかもしれません。

それでもわたしたちは旅を続けます。

どこまでもどこまでも。

クリム=カルム sola